高硬度が重要な製品のメッキと熱処理の注意点

メッキで硬度を高める為には、熱処理を施す選択肢があります。

しかしながら熱処理は、扱いに注意しなければ製品に悪影響を及ぼす可能性があります。

本稿ではメッキと熱処理について解説します。

熱処理とは

熱処理とは“焼き入れ”、“焼きもどし”、“焼きなまし”、“焼きならし”などの熱処理条件を使い分けることで、硬さや粘りなどを使用目的に合わせて金属材料の状態を調整する技術です。

例えば、浸炭処理や高周波処理、真空熱処理などがあります。

メッキと熱処理の注意点

メッキと熱処理を併用する場合には気を付けなければならないことがあります。

それは工程順序です。

単純な工程順序としてはいくつか考えられます。

例えば、

・素材⇒メッキ⇒メッキ熱処理⇒成形⇒熱処理(焼き入れ)

・素材⇒成形⇒メッキ⇒メッキ熱処理⇒熱処理 (焼き入れ)

・素材⇒成形⇒熱処理 (焼き入れ) ⇒メッキ⇒メッキ熱処理

などがあります。

今回はメッキと熱処理 (焼き入れ) の部分に着目します。つまり、メッキと熱処理 (焼き入れ) のどちらを先にする方が良いかということです。硬度が必要な製品の場合、メッキにも硬さが求められます。

硬いメッキとしては硬質クロムメッキや無電解ニッケルメッキがあります。特に精度が要求される製品には無電解ニッケルメッキが利用されます。無電解ニッケルメッキは熱処理400℃を施すことにより硬度を高くすることができます。しかしながら、無電解ニッケルメッキは適正温度を超えて熱処理を行うと、逆に硬度が低下してしまうことが分かっています。

例えば、工程順序をメッキ⇒メッキ熱処理⇒熱処理 (焼き入れ) とした場合、熱処理 (焼き入れ) の温度は無電解ニッケルメッキの熱処理適正温度400℃を超えて非常に高いため、メッキ膜が柔らかくなってしまいます。一方、工程順序を熱処理 (焼き入れ) ⇒メッキ⇒メッキ熱処理とした場合には、無電解ニッケルメッキの熱処理適正温度400℃は熱処理における“焼きもどし”となってしまい、母材や柔らかくなってしまいます。

つまり、熱処理とメッキ熱処理の組み合わせは良くありません。

熱処理をせずとも硬い無電解メッキ

熱処理をせずとも硬い無電解メッキがあります。それはホウ素含有無電解ニッケルメッキです。

無電解ニッケルメッキと言えば、リン含有無電解ニッケルメッキが一般的であり、ホウ素タイプの無電解ニッケルメッキはあまり聞き慣れないかもしれません。

ですが、ホウ素タイプの無電解ニッケルメッキはメッキ直後の硬度で750Hv程度の硬度があり硬度が必要な製品に非常に向いています。また、無電解ニッケルメッキという特性上、メッキ膜厚均一性にも優れています。

リン含有無電解ニッケルメッキではリン含有量が2%~12%程度含有していますが、ホウ素含有無電解ニッケルメッキではホウ素の含有量が1%程度となっており、ニッケルの純度が高いことも特長です。ニッケル純度が高いことにより、電気抵抗値が低いことや、ハンダ付け性、ボンディング性などに優れた特性をもたらしてくれています。

まとめ

メッキの熱処理は母材への熱処理の影響を加味する必要があります。

メッキでは熱処理をせずとも硬度の高い、ホウ素含有の無電解ニッケルメッキがあります。

リン含有無電解ニッケルメッキやホウ素含有無電解ニッケルメッキなどについては、メッキ.comまでお問い合わせください。

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