なぜバレルメッキでは六価クロムメッキが難しいのか

バレルメッキ

クロムメッキの種類とその特性

 クロムメッキには、六価クロムを使用したメッキと三価クロムを使用したメッキの2種類があります。通常、クロムメッキと言えば六価クロムを使用したメッキの事を指すことが多く、三価クロムを使用したメッキの場合のみ三価クロムメッキと称します。ここでは便宜上、六価クロムメッキ、三価クロムメッキとします。

六価クロムメッキの特性と用途

 六価クロムメッキは、強い腐食防止効果や耐摩耗性を持ち、耐候性にも優れています。そのため、自動車部品や産業機械部品など、耐候性や耐摩耗性が求められる製品に広く使用されています。

 また、六価クロムメッキは装飾効果も高く、美しい光沢を実現できます。そのため、自動車のホイールやバイクのマフラーなど、外観が重要な製品にも使用されます。

三価クロムメッキの特性と用途

 三価クロムメッキは六価クロムメッキと比べると腐食防止効果や耐摩耗性は劣りますが、環境負荷が低く生産性の高いメッキとして自動車部品などに使用されています。

 また、三価クロムメッキは装飾効果もあり、美しい光沢を得ることができます。そのため、アクセサリーや時計、眼鏡など、外観が重要な製品にも使用されます。

バレルメッキとは

 バレルメッキは、めっきプロセスの一種で、小さな部品をバレルと呼ばれる回転ドラムに入れ、めっき液に浸漬して処理を行うめっき手法です。

 バレルメッキでは、複数の製品を一度に処理することができるため、効率的なめっきが可能です。また、製品が回転するバレル内で混ざり合う為、比較的均一なめっき膜厚の製品にすることが出来ます。

バレルメッキのプロセス

 バレルメッキの概略プロセスは以下の通りです。

 1. バレルにめっき対象の製品を投入する。

 2. バレルの中で製品が回転しながらめっき液に浸かる。

 3. 電気を流し、めっき液中に溶けた金属イオンが製品の表面に析出し、めっき膜が形成される。

 4. 製品がめっき液から取り出され、余分なめっき液を洗い流す。

 5. 乾燥させて完成品とする。

バレルメッキで使用可能なメッキ材料

 バレルメッキで使用されるメッキ材料には、亜鉛、銅、ニッケル、スズ、金などがあります。

 亜鉛メッキは耐食性が高いメッキとして、建築金物や自動車部品などに使用されています。

 銅メッキは導電性や耐腐食性に優れており、電子部品などに使用され、ニッケルメッキなどその他のメッキの下地としても使用されています。

 ニッケルメッキは硬度が高く、耐摩擦性や耐腐食性に優れています。また、金メッキやクロムメッキの下地としても使用されます。

 スズは導電性やはんだ濡れ性に優れており、電子部品などに使用されています。

 金メッキは高い導電性持ち、装飾や電気部品などに使用されます。

なぜバレルメッキで六価クロムメッキができないのか

 バレルメッキは、小さな製品を一度に大量にメッキするための方法ですが、バレルメッキでは六価クロムメッキが難しいとされています。その理由は、六価クロムメッキの電気化学的特性とバレルメッキの相性に問題があります。

六価クロムメッキの電気化学的特性とバレルメッキとの相性問題

 バレルメッキでは大量の製品を一度に処理することから、電流が流れやすい箇所と流れにくい箇所(電流密度の高い箇所と低い箇所)ができ易くなります。また、バレルメッキは手法の特性上、全ての製品に対して常に電流が流れているわけではなく、製品対して電流が断続して流れています。六価クロムメッキは被覆力の弱いメッキであり、低電流密度ではクロム金属が析出しません。また、六価クロムメッキでは電流が遮断されると無光沢のめっきになったり、剥離や変色、不メッキ等の不具合を生じさせてしまいます。これらの理由により、六価クロムメッキはバレルメッキをすることができないのです。

六価クロム使用の環境問題と規制

 六価クロムは環境に対する悪影響が指摘されています。そのため、六価クロムの使用には厳しい環境規制が存在します。例えば、RoHS指令には特定の有害物質の使用制限が定められており、六価クロムが含まれている場合、製品の販売が制限されることがあります。

 六価クロムを使用したクロムメッキ自体はクロム金属が被覆されているものであり、規制の対象外ではありますが、製造工程における六価クロムの使用影響による懸念が絶えません。

 メッキ業界では、六価クロムの代替材料や代替手段の研究が進められており、クロムメッキの種類やメッキ材料などを工夫することで、六価クロムに匹敵するメッキを実現する取り組みが行われています。

バレルメッキでの六価クロムの代替めっき

 上記の問題によりバレルでは六価クロムメッキすることができません。バレルでメッキする場合には、六価クロムメッキの代わりに他のメッキを使用することが求められます。その中でも、よく使用される代替メッキには三価クロムがあります。

三価クロム使用のメリット

 三価クロムは、六価クロムに比べて環境負荷や規制の問題が少ない点が挙げられます。また、六価クロムメッキと比べて被覆力や均一電着性に優れており、電流遮断による影響も緩慢であることから、バレルでのメッキ処理が可能です。三価クロムメッキは長年の研究により耐食性が向上し、外観の美しさを保つことができます。また、めっき液中のクロム濃度も低く、排水処理も六価クロムに比べ容易であることから環境に優しいという利点もあります。

その他のクロムメッキ代替めっき

 バレルメッキでの代替手段として、スズコバルトメッキがあります。スズコバルトメッキは、スズとコバルトの合金皮膜であり、クロムメッキに似た外観を持つことが特徴です。耐食性や耐摩耗性、耐変色性に優れており、環境規制にも問題のないめっきです。

六価クロムメッキに匹敵する無電解ニッケルメッキ

 六価クロムメッキの代替めっきとして、無電解ニッケルメッキを使用されることがあります。無電解ニッケルメッキは、化学反応によりニッケルを被覆するメッキ方法です。バレルでも処理することが可能であり、メッキ膜厚が均一になることが特長の一つです。

 クロムメッキが使用されている理由の1つに耐摩耗性があります。無電解ニッケルメッキは、メッキ直後でも高い耐腐食性と耐摩耗性が挙げられますが、熱処理を施すことで更に高い耐摩耗性を得ることが出来ます。

 

六価クロムメッキより無電解ニッケルメッキが優れているところ

 六価クロムメッキはメッキの付き回り性が悪く、膜厚の厚い箇所や薄い箇所ができ易いメッキです。ですから、膜厚の影響を受けて耐食性や硬度にも部分部分で、違いが生まれやすい状態になっています。

 無電解ニッケルメッキはめっき厚みの均一性が高く、製品形状によるメッキムラを抑えることができます。その結果、硬さや耐蝕性などの製品バラツキが少なくなり、製品の耐久性を向上させることができます。また、六価クロムは環境に有害な物質として知られており、厳しい規制が存在します。一方、無電解ニッケルメッキは環境規制対象にはなっていません。これらの特徴から、無電解ニッケルメッキは六価クロムメッキの代替品として広く使われています。

まとめ

 バレルでの六価クロムメッキが難しい理由について、電気化学的特性とバレルメッキの相性が関係しています。六価クロムメッキはバレルメッキのプロセスと相性が悪く、また環境規制によって使用が制限されています。そのため、バレルメッキでは六価クロムの代替手段として、主に三価クロムメッキが使用されています。

 さらに、六価クロムに匹敵するメッキとして無電解ニッケルメッキも存在し、六価クロムよりも優れた特性も持っています。

 バレルメッキで六価クロムメッキはできませんが、代替手段として三価クロムメッキやスズコバルトメッキ、無電解ニッケルメッキがバレルメッキとして活用されています。

 六価クロムの使用制限や代替手段への移行は、環境保護や安全性の向上を目指す取り組みの一環として重要な課題とされています。今後も新たなメッキ技術の開発や改善が進められることで、より持続可能なめっき処理が実現されることが期待されます。

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第34回 クロムと環境規制

RoHSやREACHなど環境規制が厳しくなっており、それらを順守したモノづくりが必要となっています。グリーン調達などもその一環で行われています。

メッキでは硬度や耐食性に秀でているクロムが対象となっています。しかしながら、クロムが全て対象になっている訳ではありません。